planetscope blog

  • 2014-03-13

造山運動と地質学


 
いまや義務教育範囲にもなり当たり前の常識となったプレートテクトニクスは、20世紀後半の地球物理学による海洋底探査の成果である。
プレートは「地球表面を覆う複数の剛体の板状岩石、すなわち硬くて割れたり曲がったりしない岩石の板」と定義され、地殻と上部マントルの一部を合わせたリソスフェアと呼ばれる領域で形成される。まずは海洋底地磁気縞が発見され、そこから海洋底拡大説が構築されていった。地球の表面積は一定なので、拡大した海洋はどこかで消滅しないと都合が合わない、それが地震の震源分布から和達ベニオフ面として知られていた場所であるとわかった。和達ベニオフ面は地震の震源分布によって20世紀前半から知られていた構造であり、なんらかのせん断帯があるのだろうという方向で様々に解釈されていた。プレートテクトニクスにより、この和達ベニオフ面が実はプレートが海溝で沈み込んでいるということがわかった。

一方、この間にテクトニクスの分野では、地質学の特に変成岩岩石学が革新的な成果を上げた。都城秋穂は変成岩の鉱物組み合わせを詳細に熱力学的に解析し、変成相や変成帯の概念を形成していった。純粋な岩石学で、しかし熱力学という物理化学の手法を取り入れた定量的な解析から、変成岩が変成帯と呼ばれる構造を創っており、そしてそれらは低温高圧型のものと高温低圧型のものが組になっている(対の変成帯)という概念を提唱し、この結論はプレートテクトニクスによる沈み込み帯の構造、低温の沈み込み帯とその上に存在する火山フロント、と一致した。海洋底探査だけではなく、陸上地質からもプレートテクトニクスによる特徴を捉えることができたのである。

変成岩が地下深くの高温や高圧によって生じたものであるというのは、20世紀よりも昔から漫然と考えられていた(実験室での再結晶実験から類推すれば、フィールド観察より容易に想像できるだろう)。では、なぜそのような地下深くの岩石が今地表で見られるのか、という疑問が生じることになる。それは山が高くなることと関連があるという発想になる。山が高くなるとそれと同時に地下深くにあった岩石も持ち上げられる。その山が風雨による侵食を受ければ、地下深くにあった岩石が地表に露出することになる。
そして地質図を描くと、このような変成岩や堆積岩(堆積岩も堆積物が降り積もったものがからある程度の地底深くにあったものである)が、帯状に配列し、三波川変成帯、秩父帯、四万十帯などと名前が付けられ、さらに花崗岩のような深成岩(当然文字のごとくこれも地下深く出できた岩石である)もバソリスベルトと呼ばれる形態でこれらに平行になるように配置されている。日本では領家帯と呼ばれるものが代表的である。さらに、現役の活火山の列もこれと平行に分布し、一時代前まで使われてきた火山帯と呼ばれる構造をつくる(那須火山帯、富士火山帯など。今でも小中学校の地理では習うらしいが地球科学の学術の中では消滅したと言って良い)。

これらをまとめて、単純に地表面が高まって山ができることmountain buidingを超えて、「orogeny」という重要な地質学概念が提唱された。これを「造山運動」という和訳にしてしまったのは残念極まりないが今となっては致し方ない。
このような造山運動の概念をはじめてまとめ上げたのは、「地向斜造山論」で、19世紀後半のことである。これは当時の海洋底探査のデータが全くない、陸上地質図だけから形作られた理論であるが、単なる記載にとどまる地質学から、造山運動というグローバルなテクトニクスを論じたという、科学史の中で重要となる理論である。
地向斜造山論は上記のような海洋底探査によって、プレートテクトニクスに完全に取って代わられたことはいまさら言うまでもない。このプロセスで悲しくも日本では学界の政治的ゴタゴタで揉め過ぎた。そのため、時として「造山論」「造山運動」という単語は、日本の地学界隈では「地向斜造山論」とともに滅びた過去の用語かのように言われることもあるが、これはとんでもない過ちである。
現在、海洋底探査から始まったプレートテクトニクスと、上で述べた変成岩岩石学を中心に発達した陸上の地質学からまとめ上げられていることから、造山運動を一言で表すと、「造山運動とは、プレート境界で起こる地質現象の総称」ということができる。プレート境界の種類とそこで起こる地質現象の特徴を時空間的に分類することは、過去の地質を読み解くための指針となる。造山運動の概念に基づいた地質記録の解読こそ、過去の地球のテクトニクス解読である。都城秋穂の変成帯研究はそのひとつの重要な部分を占めており、日本の地質学ではさらに付加体研究で大きなオリジナリティを生み出している。これについてはまたいずれ別の記事を書きたいと思う。
海洋プレートの年齢は、最も古い太平洋プレートでも2億年程度である。それよりも古い時代に形成された地質体には、現在観測でわかる直接的なプレート運動は無いので、地質記録を解読しなければならない。40億年以上の地球史の中で形成されてきた地質記録を解読するには、陸上地質の造山運動の概念をまとめあげることで、ただ単にどこにどんな岩石が分布するかを記載され色塗りされてきたてきた地質図が一体なにを意味するのか、ということを読み解く根幹となるのである。グローバルな造山運動の研究は、今でも、そしてこれからも地質学の頂上に立つ。
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Author:てるてる
沢田 輝
(@Hikaru_Sawada @IWKRterter)
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東京大学広域科学専攻D2(駒場キャンパス)
博士課程より、東京工業大学地球惑星科学専攻から移籍しました。
地球惑星科学のなかでも、大陸地殻の成長と進化などといったテーマの地質学・地球化学あたりの研究をしてます。

中学から鉱物コレクションをはじめて早くも15年くらい、鉱物学から地球科学全体へ興味が広がっていって今こうなってしまったという感じの院生です。
石の話や、大学の話、学問とか関係ない雑記も適当に書いていきます。

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