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  • 2010-10-11

ハンガリーの化学汚染事故


  2010年10月4日、ハンガリーのブタベストの西南の方にあるアジュカ Ajkaにて、アルミニウム精錬工場で、廃液を貯蓄しておくためのダムが決壊してその下流域に汚染が広まってしまうという事故が発生しました。


◆時事ドットコムhttp://www.jiji.com/jc/zc?k=201010/2010100500885より
【ベルリン時事】ハンガリー西部で4日、アルミニウム工場の廃棄物貯蔵施設にためられていた泥状の有毒物質が大量に流れ出し、周辺の村を汚染した。ハンガリー通信によると、5日までに住民4人が死亡。負傷者も120人に達し、同国政府はベスプレム県など3県に非常事態宣言を発令した。
汚泥は高さ2メートルに達し、230軒の家屋が被害を受けた。電気や水、ガスの供給は止まり、住民は学校に避難している。
汚泥には腐食性物質が含まれ、負傷者の多くはやけどを負ったという。現場には軍が出動し、救出活動や汚泥の除去作業に当たっている。(2010/10/05-20:30)




◆NHKのHP(動画も観れます)http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00185757.html
ハンガリー西部で有毒な産業廃棄物が流出し、住民ら120人以上が死傷した事故は、現在も汚染が拡大していて、国際河川のドナウ川にも有毒物質が流れ込む可能性が出ている。
被災地では、軍などが有毒物質の赤い泥の除去作業を行っているが、泥は大量で、広範囲にわたっていることから、完全な除去のめどは立っていない。
汚染地域は現在も拡大していて、有毒物質が流れ込んだ川では、大量の魚が死んでいるのが見つかっている。
災害対策本部の関係者は、有毒物質がドナウ川に流入する可能性も捨てきれないと話していて、政府は、石灰を川に流し込んで毒を中和する作業を急いでいる。
今回の事故は、4日、アルミニウム工場の廃棄物貯水池が決壊して有毒物質が近隣の村などに流出したもので、住民4人が死亡し、120人が負傷している。(10/07 13:02)




ところで、この赤い汚染物質は何なのでしょうか。
ニュースではアルミニウム製錬の際に出る物質ということしか教えてくれてませんが、具体的にどのような物質が危険なのでしょうか。

工学博士のTamotsu Thomas UEDAさんのBlogに少し詳しいことが書いてありましたのでそれを紹介します
http://fugenji.org/thomas/diary/index.php?mode=res_view&no=346

(引用)
ボーキサイトは、アルミニウムの水酸化物を豊富に含んでおり、不純物としてはシリカ、酸化鉄、二酸化チタンなどが含まれている。これを金属アルミニウムにするために、まずはアルミニウム以外の金属元素とシリカを除去しなければならないのだが、そのためには、まずボーキサイトを高濃度の水酸化ナトリウム水溶液で煮る(煮るといっても、その温度は摂氏200度を超えるのだが)。こうすると、アルミニウムを含んでいる成分だけが溶液に溶けこむ。たとえば水に対して不溶性のアルミナ(酸化アルミニウム)だと:

Al 2O3+ 2 OH- + 3 H2O → 2 [Al(OH)4]-
という反応を経由して溶解する。この溶液の上澄みを取って(つまり沈殿物を除去して)冷却すると、沈殿物として水酸化アルミニウムが得られ、それを高温で焼くと、他の金属元素をほとんど含まない高純度のアルミナが得られる。ここまではバイヤー法と呼ばれる方法なのだけど、ここからは有名なホール・エルー法を用いて、電解精錬法で金属アルミニウムを得ることになる。

さて、で、今回のハンガリーのアレは何なのか?という話になるわけだけど、あれはボーキサイトを水酸化ナトリウム水溶液で煮たときの沈殿物である。高濃度の鉄が含まれていて、その鉄が三価のイオンになっているからあのような色なのである(ベンガラ……紅殻とも言うけど……を連想していただければ分かりやすいと思う。ベンガラは第二酸化鉄 Fe2O3 で、これも三価の鉄イオンを含んでいる)。これを「赤泥(せきでい)」と言うのだが、その主成分は第二水酸化鉄 Fe(OH)3 とシリカ、水、そして水酸化ナトリウムである。

この赤泥はそのままでは強アルカリ性のため、塩酸や硫酸で中和してから廃棄する必要があるのだが、塩酸も硫酸もタダではない。捨てるもののために多額の出費をするんだったら、未処理のまま溜めておけばいい……そういう考えだったのだろう。しかし、強アルカリは生体組織を容易く侵す。未処理の赤泥が目に入ればかなりの確率で失明するし、皮膚に付着した場合も、すぐに大量の水で洗い流さなければ皮膚の炎症を起こしてしまう。
(引用終了)



水酸化ナトリウムは中学や高校の化学実験ですら頻繁に使う物質ですが、非常に強いアルカリ性で危険な物質です。少しでもうっかり手で触ってしまうとかなりヒリヒリします。
また、これは今回の事故だけでなく洪水災害一般に言えることですが、水が泥と混ざり合って泥水となって流れ出ると重液のようにかなりの比重になります。そうすると、車や家ですら簡単に運んでしまうほどの威力を持ちます。触れるとヤケドするほどのアルカリ溶液がそんな威力で流れてきたら… これはすごい災害ですよね(><;)

ところで、ニュースでは今回の事故で流れ出た赤泥の中には水銀が含まれていて人体に有害だと言ってましたが、アルミニウム精錬でそれ程の水銀が発生するのでしょうか?
アルミニウムの原料鉱石がボーキサイトであるということは、小学校の地理などでも習っているかと思います。このボーキサイトというのは複数種類の鉱物が集まったものです。その構成鉱物は、アルミニウムの化合物であるのはギブス石(Gibbsite、Al(OH)3)、ベーム石(Boehmite、AlO(OH))、ダイアスポア(Diaspore、AlOOH:ベーム石と組成は同じながら層状結晶の構造が異なる)といったアルミニウムの水酸化物で、このほかに不純物として石英(Quartz SiO2)、赤鉄鉱(Hematite Fe2O3)、針鉄鉱(Goethite FeO(OH))、チタン鉄鉱(Ilmenite FeTiO3)等が含まれています。これは長石、石英、雲母でできた花崗岩質の岩石が、熱帯の激しい雨によって珪酸成分が脱落してできたものです。
金、銀、銅、鉛、亜鉛などの鉱石は熱水鉱床と呼ばれる鉱床で採れるものであり、水銀も通常の岩石より高濃度で鉱石に含まれていると考えられます。しかし、ボーキサイトは上記のように成分的には花崗岩質の通常の岩石であるため、それほど高濃度の水銀が含まれているとは考えにくいです。精錬の過程で濃縮されるということなのでしょうか?どなたか採鉱や精錬などに詳しい方がいたら教えてくださいm(_ _)m


それにしても、ニュースや動画などで見ると決壊したダムはずいぶん貧相なつくりをしていますね… 東欧の国にはこんなものも残っているということなのでしょうか。。。


さて、では今後この災害はどうなるのでしょか。
確かに大変な災害ではありますが、チェルノブイリの放射能漏れやフロリダ湾の原油流出に比べれば、「比較的マシ」な災害と言えるかもしれません。いえ、もちろん歴史に残る重大な事故であることは否めませんが・・・
水酸化ナトリウムは、酸性物質で中和できますし、放っておいても時とともに空気中の二酸化炭素を吸って炭酸水素ナトリウムなどに中和します。酸化鉄や酸化アルミニウムなど自体はそれほど害悪はありません。
ただ、乾燥して泥が微細な粉末として飛散し始めると肺が侵される危険があります。水酸化ナトリウムの中和にどれくらいの費用がかかるかもわかりません。ヨーロッパは大陸ですから、越境汚染の可能性もあります。事故を起こした企業はもちろん、現地の政府にもしっかりとした対策を取ってもらいたいものです。



(追記 2010/10/12)
Wikipediaに記事『ハンガリーアルミニウム赤泥流出事故』ができてました。
編集が事故の経過に追い付いていない可能性がありますが、とりあえずはなかなか詳しく書いてあるので参考にどうぞ

それによると、チタンやヴァナジウムが含まれていることは文献としてGreenwood, Norman N.; Earnshaw, A. (1984). Chemistry of the Elements, 1st, Pergamon: Oxford, 245. ISBN 0-08-022057-6. というものが挙げられていましたが、「その他の重金属」については海外のNewsサイトを紹介しているのみでした。


(さらに追記 2010/10/29)
ウィキペディアの記事に「また、 グリーンピースによると採取された赤泥には乾燥重量で110ppmのヒ素、1.3ppmの水銀、660ppmのクロムが含まれていたという[12]^ Danube 'neutralising toxic sludge'-AP通信2010年10月8日付け。 」という記述が追加されていました。
しかし、ネットで軽く調べて見つけた書類(これ→http://www.env.go.jp/council/toshin/t10-h1407/08.pdf)によると、土壌中の総水銀、砒素、六価クロムの措置レベルはそれぞれ9ppm、150ppm、900ppmだそうです。それと比べると赤泥の中の水銀などは大した問題では無いように思えます。ただ、「赤泥の乾燥質量」と「土壌」を単純比較していいのかわかりませんが。。。

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沢田 輝
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東京大学広域科学専攻D2(駒場キャンパス)
博士課程より、東京工業大学地球惑星科学専攻から移籍しました。
地球惑星科学のなかでも、大陸地殻の成長と進化などといったテーマの地質学・地球化学あたりの研究をしてます。

中学から鉱物コレクションをはじめて早くも15年くらい、鉱物学から地球科学全体へ興味が広がっていって今こうなってしまったという感じの院生です。
石の話や、大学の話、学問とか関係ない雑記も適当に書いていきます。

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