planetscope blog

  • 2011-03-01

3-1 千葉石の産地と生成環境


  本館planetscopeで千葉石の特集ページ作りました!

http://teruteru.bakufu.org/Chibaseki.html


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◆化石と共に…
千葉石が発見されたのは、保田層群といわれる約1800万年前、新第三紀中新世の地層の砂岩中の珪酸塩脈です。千葉県はそのほとんどが第四紀の新しい堆積物の地層で覆われているため「石なし県」と呼ばれているわけですが、県の南部、房総半島の先端あたりには第三紀の比較的古い地層が露出しています。これらの地層はほとんどが付加体として海底でできたものです。
付加体を知らない方はこちらこちらに軽く目をお通しください。難しいものではありません。図を見れば雰囲気はわかると思います。簡単にいえば、海洋プレートの上に積もった砂や泥、生物の遺骸、火山島や海底火山などといったものが、大陸プレートの側によって「カンナで木を削るようにして」、どんどんくっついて(付加して)できた地層のことです。千葉県に限らず、日本列島はほとんどが付加体による地質で成り立っているので大変重要です。

さて、鉱物採集としてはいくら古くても付加体でも、砂岩や泥岩の中からは面白い鉱物は殆どまったく出てきません。なので、鉱物マニアは通常は堆積岩の地層はスルーと行ってもいいくらい見向きもしないことが多かったりします。千葉県での鉱物採集といえば、蛇紋岩や変斑レイ岩、玄武岩といった苦鉄質岩石(哲也マグネシウムに富む黒っぽい火成岩)の中や割れ目に含まれる鉱物が狙い目になってきました。

それに対して、今回の千葉石は冒頭でも書いたとおり保田層群の砂岩(正確には凝灰質砂岩らしい)の中から見つかった鉱物です。千葉石の発見者たちは、千葉県に鉱物採集ではなく化石採集をしに行っていたとのことです。化石を掘っていたら奇妙な結晶を見つけた、というところから始まったとのことです。皆が注目しないところに発見はある、ということなのでしょうかね。
それはともかく、では、千葉石の取れる地層では何の生物の化石を採集できるのかというと、シロウリガイという貝類の化石が採れるそうです。


◆海底でメタンの湧昇
シロウリガイとは、どのような貝なのでしょうか。以下はWikipediaの記事から引用しました。

~引用開始~
シロウリガイ(白瓜貝、学名:Calyptogena soyoaeは、マルスダレガイ目オトヒメハマグリ科に属する二枚貝。深海においてプレート活動に伴いメタンなどを多く含む冷水が湧出する場に形成される、冷水湧出帯生物群集(Cold Seep Community)を構成する種のひとつである。(中略)
・形態
殻長14cm。殻は長楕円形で殻頂は前方に寄り前傾、後位で外在する靭帯は長い。殻の腹縁はくぼむ。
・生態
深海の冷水湧出帯に、大きなもので数十m四方以上にも達するパッチを形成し、ぎっしりと密集して生息する。殻長70-80mm以下の小型個体は海底堆積物に深く体を埋め、体の後端の水管だけを海水中に露出しているが、それより大きく育った個体は殻の前端だけを堆積物に埋めて斧足を下に伸ばし、殻のかなりの部分を海水中に露出して生活している。湧出する冷水に含まれるメタンを堆積物中の硫酸塩還元細菌が消費して硫化水素を生産するため、堆積物の10cmより深い部分では硫化水素濃度が急激に上がっている。シロウリガイはこの硫化水素を堆積物中に伸張させた斧足で摂取し、硫化水素運搬タンパク質によって鰓まで運ぶ。鰓の上皮細胞内には硫化水素を用いて有機物を合成する化学合成細菌が共生しており、シロウリガイはこの細菌から有機物を得て生活している。多くの二枚貝のようにプランクトンやデトリタスを摂食して生活するのではないので、消化管は退化している。
深海の二枚貝は餌となるプランクトンやデトリタスが乏しいため小型の種が多い。しかしシロウリガイ類は豊富な硫化水素によって化学合成細菌が生産する有機物に依存しているため、深海産の貝としては非常に大きく成長することができる。
~引用終了~


シロウリガイ
↑画像8 現生のシロウリガイの画像 http://www.whoi.edu/oceanus/viewImage.do?id=5704&aid=2505より

シロウリガイの化石
↑画像9 シロウリガイの化石 平塚市博物館のページより

深海底の熱水噴出孔で高温でも生きられる生物がいるということがテレビ等で話題になることはしばしば有りますが、こちらはそういった暑い温泉のようなものが沸き上がっているわけではなく冷たい水が沸き上がっているところにいる生物です。

千葉石の成因
↑画像10 千葉石の生成したような場所の様子 千葉県立中央博物館の配布資料、
 Mineralhuntersさんのページhttp://mineralhunters.web.fc2.com/chibaitetenji11_2.htmlより引用

海洋プレートから次から次へと供給される付加体は、積もっていくうちに図にあるような逆断層(ひび割れ)を形成します。これは地震の原因にもなりますが、この割れ目に沿ってメタンなどの天然ガスを含んだ冷たい水が上昇しており、そのメタンのエネルギーを用いて微生物は硫化水素を作り、その硫化水素のエネルギーでシロウリガイは生きています。
日本近海で見られるメタンハイドレートなどの天然ガスハイドレートの多くもこのようにして湧いてくるメタンなどの天然ガスが冷たい海水と海底の高圧下で反応することによりできるものです。
そして今回発見された千葉石はシロウリガイの化石と共に見つかることからこのような環境においてメタンと岩石中のシリカが反応してできるものであると考えられています。

ところで、このメタンなどの天然ガスの起源は堆積物中に含まれる微生物の遺骸から発せられるものであるとする生物起源説や、より深いところから無機的に上昇してきたとする説など諸説あり未だその確たる答えは分かっていません。その意味でも、今回の千葉石の発見がこう言った謎を解き明かすヒントになるのかもしれないと、期待を抱かせるものなのです!


◆「鉄丸石」もこんなところで
ところで、千葉県には「鉄丸石」またの名を「へそ石」という水石が採れます。余談ですが、水石銘石の世界は鉱物趣味の隣接世界だと思われますが、和の風情を味わう水石銘石と、華美絢爛な結晶かマニアックなサイエンス方向に走る鉱物趣味は、実際はそこまで相性が良くないような気がする、というのは鉱物マニア界の共通認識のようです。

この鉄丸石というのは千葉石と同じく新第三紀中新世の保田層群に含まれる付加体の泥岩などの中から採れるもので、そこではシロウリガイなどの化石も見つかります。というよりも鉄丸石の中にそういった生物の化石が取り込まれていることすらあります。
鉱物学的には菱鉄鉱FeCO3を主成分としていて、茶色くて丸っこい見た目と鉄球のように重いことから、水石趣味の世界から「鉄丸石」の名前がつけられました。千葉だけでなく、三浦半島、静岡、高知などの同じような付加体の地層からも見つかります。

鉄丸石

↑画像11 室戸岬の鉄丸石 ブログ『うまめの木のひとりごと』http://blog.umamenoki.com/?month=200806より
  「鉄丸石」という名前の由来も「へそ石」という名前の由来もよくわかる良い標本です。

・Mineralhuntersさんのページより鉄丸石採集の様子
http://mineralhunters.web.fc2.com/chibahesoisi.html
 鉄丸石の産状の様子がわかります。


漫画評論家で鉱物愛好家である伊藤剛さんと、鉱物コレクターの高橋秀介さんは著書『鉱物コレクション入門』で、鉄丸石の成因を天然ガスハイドレートや千葉石と同じくメタンを含む冷湧水に求めています。
メタンなどの天然ガスと共に2価の鉄イオンが、付加体の割れ目の中を冷湧水に溶けこんで上昇してくる。天然ガスによる還元的な環境により鉄は2価イオンとして存在していられる。しかし、岩石の中を抜けて海底付近に出てくると、メタンなどのガスはハイドレートとして速やかに固定されてしまったり、広い海水中に拡散してしまったりします。その後取り残された鉄イオンが海水中に溶け込んでいる炭酸イオンと反応すれば、炭酸鉄、すなわち菱鉄鉱になります!
「鉄丸石」の別名が「へそ石」ですが、その「へそ」の部分を通り道とした冷湧水の湧き出口の「煙突」のようにしてこの石は形成されていたのではないか、ということです。
この説はとても説得力がありますが、あくまでまだ説です。今後、海底調査などで現在進行形で生成している鉄丸石が見つかればこの説も証明されるかもしれません。

もし、「鉄丸石」が冷湧水の「煙突」だとすると、鉄丸石は先述のとおり、日本列島太平洋側の付加体各地で見つかりますから、そういった場所の地層からも千葉石が見つかるかもしれません!


◆新たな千葉石産地を求めて
はじめに書いたとおり、日本列島の地質はほとんどが付加体から成っています。冷湧水の湧き出していたと考えられる場所もたくさんあります。そういったところを探せば新たな千葉石産地を発見できる可能性が高いでしょう。鉱物マニアの間では今回発見された千葉石原産地に殺到、産地が荒廃、地元に迷惑などというパターンになってしまうのではないか、という心配がなされていますが、原産地に殺到するよりも他の似たような地層を、シロウリガイや鉄丸石、そして2-2で紹介した黒珪石などを頼りにして、探す方ががより建設的であると思われます。
アマチュア愛好家の力で新しい千葉石産地が見つかり、またなにか新しい発見があることに期待したいです!



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沢田 輝
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東京大学広域科学専攻D2(駒場キャンパス)
博士課程より、東京工業大学地球惑星科学専攻から移籍しました。
地球惑星科学のなかでも、大陸地殻の成長と進化などといったテーマの地質学・地球化学あたりの研究をしてます。

中学から鉱物コレクションをはじめて早くも15年くらい、鉱物学から地球科学全体へ興味が広がっていって今こうなってしまったという感じの院生です。
石の話や、大学の話、学問とか関係ない雑記も適当に書いていきます。

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