planetscope blog

  • 2014-05-04

地向斜造山論の科学史の中における再評価


  地質学の基本原理というと、「地層累重の法則」が挙げられる。しかしこれで地質現象の全てを説明することが無理なのは昔から知られていただろう。
そもそも累重するだけなら、なぜ地表に古い時代の地層が見られるのか。変成岩や深成岩などの地下深くで形成されたことが確実な岩石がなぜ地表に露出して我々が手にすることができるのか。この理由として、山の形成、すなわち造山運動と関連付けたのである。雨風吹き荒れる地球表層環境では、山や谷などの起伏はあっという間に風化、侵食、堆積といった作用で平坦になってしまうに違いない。しかし現実には高い山がそびえている。
地殻に何らかの大きな力が働くことによって、地球に皺ができている、その皺の形成にともなって地球深部の変成岩や深成岩が地表付近へと上昇して高い山となり、さらに侵食によって現在では地表に露出している、というアイデアである。

加えて、地質図を描くと、平面である地図の中に縞模様のようなモザイクが浮かび上がる。堆積岩、変成岩、深成岩が帯状に、何度も繰り返すように配列しているような様子が見て取れる。ここには何らかの意味があるに違いない。
折しも、山の形成というのもアルプス山脈やヒマラヤ山脈のように帯状に配列するので、こういった発想に至るのは比較的容易だったのかもしれない。しかし、これを理論としてまとめ上げるまでには多大な時間を要した。19世紀後半に至るまで、世界の地質を記載するので手一杯だったのである。

さて、このような地質学の発展の歴史の中で地向斜造山論は、地質学の中ではじめて体系的に「造山運動」という概念を扱った理論である。19世紀後半、ちょうどナウマンが日本列島を訪れた頃、それは徐々に形として現れる。当然のことであるが、その時代はまだ放射性年代測定の技術もなければ、物理探査もない、海洋底の地質情報もない。このように限定的な陸上地質だけの限られた情報の中で、ユー地向斜(PTにおける活動的大陸縁辺)やミオ地向斜(PTにおける受動的大陸縁辺)といった造山運動帯の分類、また玄武岩や深海堆積物によるメランジュ(現在でいう付加体)、変成岩の上昇、花崗岩バソリスといった構成要素の括りとして"1回の造山運動"(アパラチア造山運動、佐川造山運動など)という概念の提唱、などを行うに至る理論の核を担った地向斜造山論は研究史上の中で評価されるべきであろう。

その後、20世紀後半のアメリカを中心とした海洋底探査によって、プレートテクトニクスが実証され、地球物理学的にモデルとして完成されたのはあらためて言うまでもない。プレート沈み込み境界について、地向斜造山論はユー地向斜として垂直方向の運動のみで造山帯の地質構造を説明していたが、これが実はプレート沈み込みによる水平方向のテクトニクスによって作られる大規模構造であることが日本列島の地質の詳細な研究を通じて明らかにされた。
特に、放散虫化石によるチャート層の1枚おろしは付加体によるデュープレックス構造、すなわち水平方向短縮による地質構造を年代という数値を入れて実証したことで大きな功績であり、さらに日本の科学研究の大きなオリジナリティであるといえるだろう。

その後の日本の地質学について、付加体地質学の成功からなのか、単純に「地向斜造山論は過去の間違った学説、現在は付加体で説明できる」という話を一般の地学の"おはなし"ではしばしば聞くが、それだけで全て丸く収まる時代は過ぎたと考えて良い。日本列島がユーラシア大陸の端でカンナ屑のように付加体がモリモリと拡大してできただけではあまりにも単純化したモデルである。最先端の研究はさらにその先を行っている。

「造山運動は古い用語で、地向斜造山論とともに廃れた過去のものである」と評されているものも見かけるが、これもトンデモナイ誤りである。プレートテクトニクスの枠組みのもとで、造山運動とはプレート境界で起きる一連の地質現象の総称である、と定義できる。ここで英語の「Orogenオロジェン」の訳として導入された「造山運動」という和語に問題があるのだが、造山運動Orogenは地質現象に関する用語なので、山が高くなることMoutains buildingとは本質的には同期しないという点に注意が必要である。(こう考えると、造山運動という和語を滅ぼしてもっとセンスある日本度の用語を導入してもよいのかもしれないが、これは多分ムリなことだろうから、諦めて造山運動という用語を普及していこうか…)
付加体の形成時期、変成岩の上昇、花崗岩バソリスの形成、これらはプレートの沈み込みがある間ずっと漫然と続いているわけではない。ある特定の時期に間欠的にこれら造山帯の構成要素が発達したり、逆に消失したと考えられる時期もある。この周期性を形作るのは、海洋プレート上の中央海嶺沈み込みによるスラブ沈み込み角度の変化によるものだというモデルが提案されている。すなわち、「1回の造山運動」というのが海洋プレート1枚の沈み込みに対応しているのかもしれない。これは高い可能性を持っているものの、詳細な実証については今後の課題である。造山運動の研究は今現在でも固体地球惑星科学の最先端である。
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沢田 輝
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東京大学広域科学専攻D2(駒場キャンパス)
博士課程より、東京工業大学地球惑星科学専攻から移籍しました。
地球惑星科学のなかでも、大陸地殻の成長と進化などといったテーマの地質学・地球化学あたりの研究をしてます。

中学から鉱物コレクションをはじめて早くも15年くらい、鉱物学から地球科学全体へ興味が広がっていって今こうなってしまったという感じの院生です。
石の話や、大学の話、学問とか関係ない雑記も適当に書いていきます。

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